ロック回帰の謎/Sting「57th&9th」ライブ

Stingの「57th&9th」ツアーの日本公演に行ってきた。公式サイトで調べるとソロになってからは実に20回目のツアーに当たるらしい。最近は日本に来ていないツアーも多いので久しぶりの公演となる。僕自身は2005年の「Sacred Love」が最後に見たライブだったと思うので、実に12年ぶり。

昨年、Peter Gabrielと一緒に回ったツアーはかなり見たかったのだが、これも残念ながら日本には来なかった。そういう意味では日本市場というのはこの人にとってどうでもいいものなのかもしれないし、あるいは欧米でのファンの熱量の方が圧倒的なのかもしれない。

僕が初めてStingのライブに行ったのは二十歳のころ、甲子園球場で、確か2枚目のアルバム「Nothing like the sun」のツアー。実に30年前である。

ということで当然ながらファンは確実に高齢化しており(笑)、見事に40代後半〜50代というところ。まあ、ポールマッカートニーもそうだったし、アーティストの年齢とファンの年齢は比例するのだなと。

今回のコンセプトは分かりやすく「ロック」である。なぜそうなったのか知る由もない。Marcury Fallingあたりからなんとなく迷走してた感じもあったので一度スッキリしたかったのかもしれない。2000年代中期にやっていた「Songs from the Labyrinth」などの古楽のカバーや、冬をテーマにした楽曲群などは個人的に好きなんだけど、広くは受け入れられなかったのだろう。

要は非常に頭の良い人であるので、なんでもできちゃうわけである。だからこその苦悩、というのがこの10数年くらいあったんじゃないかという気がする。ポップにもロックにもエスニックにもジャズにもクラシックにも器用に振っていける。ただ、ファンはどこかポリスの残り香を求めるし、同時に洗練されたアダルトコンテポラリーとしての一面も求める。作り手としては辛いところだ。そういう意味では「Ten Summoner’s Tales」が、僕はアーティストが作りたいものとファンが聞きたいものが高度にバランスした最後の作品のような気がする。

ファンとの間をつなげるキーワードがロックだとは思っていないけど、それがおそらく今のStingにとって現在の「共有」という部分での重要なコンセプトなのだろう。ただ、それはあくまで演奏装置としてのロックであり、(詳しく理解してないけど)詩の内容などはおよそロックからかけ離れた相当込み入ったもののはずだ。

Having a laugh at sound check, #Budokan. Thank you #Tokyo. See you in #Osaka tomorrow. #57thAnd9thWorldTour Photo by @mkcherryboom

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さて、こういう話をするとどこまでも長くなるのでライブレビューを。

僕が行ったのは日本公演4つのうち、6月10日のラストの大阪公演。このツアーは2月から始まって9月に終わるらしいので、日本はちょうど中盤くらい。メンバーはギターがもはやStingの片腕と化しているドミニクミラー、となぜかその息子さんのルーファスミラー、ドラムがジョシュフリース。あとバックコーラスにStingの息子さんのジョーサムナーと、前座のラストバンドレーロスという知らないバンド。

ということでソロになってからは初だと思うのだけど、キーボードがいないのが特徴である。コンセプトが「ロック」だから別にいいんだけど、Stingの場合、キーボードがないと再現が難しい曲が多いのでどうするんだろうな、というのが最大の懸念事項だったんだけど、見事に「勢い」で乗り切っていたw それ以上にヒットソングが多数なので、歌でどうにでもなる、というのはあるだろう。

ということでセットリスト全27曲のうち、9曲がポリス、あとはソロ時代のヒットソングと、ニューアルバムから少し、という感じで、ベストオブSting&Policeな内容。盛り上がらない訳がない。

ドラマーのジョシュフリースはそつなく、タイム感もジャストで良かったけど言い換えると存在感がなかった。ドミニクミラーはもうStingの奥さんですよ、と言わんばかりの抜群の安定感、息子のルーファスは何してたんだかよくわからないw Stingの弾くベースはとにかくミニマムなんだけど、ボトムの安定感がさらに増したような気がした。曲によって異常に低いベース音が鳴ってたけど、あれはペダル(シンセ)かな。

MCも最低限、Stingはあまり動かず、とにかく弾いて歌う。それだけ。原曲通りのメロディを完全に歌いきっていて、完全に「俺の歌を黙って聞け」みたいな感じ。そこが今回のライブの一番のポイントかもしれない。

ご存知の通り、Stingは非常に高いキーが多く、特にポリスなどは顕著なのだけど、全てちゃんと歌いきっていた。代表曲「Roxanne」は中でもかなり高いと思うのだけど、歌詞の途中の「So put away your make up〜」の「up」の部分ってとてもきつくて、たいていのライブはここをごまかして歌うんだけど、ちゃんと原曲通り。これには感心した。

ということで、ロックにフォーカスしたなりの、彼なりの覚悟というか、そういう気概が素晴らしいライブだった。声や体力のコントロールってすごく大変だと思うけど、それが徹底されてる感じ。コンセプトの表現、という意味では大成功と言えると思うし、たいていのお客さんは大満足の出来だったのではないかと思う。やっぱりヒットソングが持つ同調力ってすごいなと。

ただ、本人もファンも、いい意味でも悪い意味でも歳である。ロックに歳なんて関係ないぜベイベー、みたいな人もいるかもしれないが、彼はローリングストーンズでもジミヘンドリックスでもレッドホットチリペッパーズでもない。ロックミュージシャンはグラモフォンからCDを出したりはしない。ロックなんてものに縛られずに表現してほしいな、と思ったのが正直なところ。

ただなんとなく、バンドによる表現というものにとても愛着を持ってるんだろうなとも思った。それが本人の幸せなら、それはそれでいいのだけど。

ひとまずツアーの成功を祈りつつ、次作を待とう。