心を「開かせる」「開く」ことの難しさ/【映画】再会の街で

眠れなかった夜に何気なく見たのだけど、すごく良かったので感想を。

あらすじやパッケージの雰囲気から、いわゆるありがちなヒューマンドラマ、感動モノというやつだろうな、と思っていたのだけど、少し違った。

ドンチードル扮するアランは真面目一筋、家族思いのいい奴、医者でお金持ち。アダムサンドラー扮するチャーリーはアランの医学生時代からの友人だが、9.11で家族全員を失い、それを思い出すまいとひたすらゲームや音楽に現実逃避する孤独な男。

ニューヨークの街で偶然二人が出会うところから話が始まるのだけど、アランはあまりのチャーリーの変わりように対して何かできることはないかと手を差し伸べる(いい奴だから)。しかしチャーリーの心は想像できないほど損なわれており、全く会話がかみ合わない。ただ「友人」なので、お互い何となく距離を保ち合う。

アランはなんとか友を救おうと、チャーリーの言うまま夜中に一緒に遊んだり、あるいは知人の精神科医を紹介したりする。でもチャーリーは何かしてもらうたび「そうじゃない」と感じる。ますます孤独になり、ある日、泥酔して障害未遂のような事件で捕まってしまう。

チャーリーの奥さんの両親も同時に娘と孫を失ったわけで、チャーリーと悲しみや生き方を分かち合えるはずなのに、チャーリーは全くそこに見向きもせず、自分勝手に生きて事件まで起こす。アランはかばって間に入るのだが、両親はついに我慢できず、彼と(裁判で)争うことになってしまう。

奥さん遺族側の弁護士の「こういう精神障害者は長期間の拘留が必要だ」という意見や、両親のさらなる追求に対しついにチャーリーは激昂、初めて今までため込んだ思いや、どれだけ家族を愛していたかをその場でぶちまける。

裁判長(ドナルドサザーランド!)は彼の社会復帰の可能性を信じたのか、あるいはアラン含むまわりの人間を信じたのか、はたまたこういった患者に対する国の対応が気にくわないのか、結局彼を無罪とする。

そしてチャーリーは吹っ切れたように突然別のアパートに引っ越し、アランや彼の患者や精神科医と少しだけ心を許すようになり、少しだけ以前と違う生活を始める。

・・・みたいなストーリーなのだけど、これだけ読めば病んだチャーリーの「復活物語」みたいに見えるだろう。

しかし終盤になって分かってくるのだが、この作品は「心を開かせる」と同時に「心を開く」ということがいかに難しいかを描いているように思う。チャーリーの心の深い闇を開かせるのは並大抵ではなく、アランの持つ閉塞感や息苦しさの正体を開くのもまた難しい。だがチャーリーはアランからの優しさと愛によって、アランはチャーリーとの男の友情と愛によって、その可能性が少しずつ芽生える。

チャーリーはまだ「傷」というのが分かりやすい故に、とても難しいけれどそれが癒える方向を探ればよい。しかしアランは恵まれた生活だ。金持ちで、家族がおり、社会的地位もある。傍目にも自分でも何が「閉じている」のか分からない。だけどいつも息苦しい。それが何か分からない。でも劇中、彼の奥さんはなんとなくそれが分かっている。

アランは最後の方で奥さんに電話をかけ、許しを請う。奥さんは涙ぐんでそれを許す。そしてそれを教えてくれたのはチャーリーだ。ここが僕は一番ぐっときた。

チャーリーの損なわれたものを元に戻すのがものすごく難しいように、普通の人の自分が気づいていない闇に光を当てるのも難しい。そしてそれは結局「誰か」が必要だということだろう。

特に日本という国にこれを当てはめてみると、チャーリーやアランのような精神状況の人も割といるような気がするし、この映画以上に今の社会のままだと「開いていく」チャンスが少ないようにも思う。

当たり前のことだが、人の痛みに敏感になること、話をちゃんと聞くこと、与えること、耐えること。そうでないと結局自分自身が救われないのだよ、ということを突きつけている作品だと思った。

毎日をまじめに、でもルーティーンに生きている人こそ観ていただきたい。

再会の街で (字幕版)
Jack Binder, Michael Rotenberg

 
(その他思ったこと)
※9.11と絡めるのはあまりに失礼だという意見もあるようだが、観客に「失意の深さ」を感じさせるという意味では成功していると思う。
※アランの患者役の女性の立ち位置の描き方が微妙。
※リヴタイラーは久しぶりに観たけど、相変わらず綺麗。
※裁判長役のドナルドサザーランドの威圧感とぶった切り感は見事。キャスティングした人えらい。
※チャーリーの髪型やファッションがボブディランなのは意図したんだろうな、やっぱり・・・
※この映画とトーンもテーマも違うけど、得られる教訓が似ているという意味でデヴィッドフィンチャーの「ゲーム」を思い出した。
※邦題があまりにも普通。しかしチャーリーの家族愛の深さを示している「Reign Over Me」(愛の支配)という原題は確かに訳すの難しいだろうな・・・

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