リリカルな村上解釈/【映画】トニー滝谷

久々に映画評。

原作:村上春樹、監督:市川隼、音楽:坂本龍一、ナレーション:西島秀俊というなんというか不思議な組み合わせ。
市川さんは数年前残念ながらお亡くなりになられましたが、元々はCM演出をやっていた人で、そこから監督になった方。割と古い方なので僕は存じ上げなかったのですが、CMでも名作がありますね。長年村上春樹のファンだったようです。

で、作品として取り上げたのが「トニー滝谷」というのが面白いですね。この作品はとても地味で、「レキシントンの幽霊」の中ほどに収められた短編。結構前の作品で(10年以上前?)、変わったタイトルだな、ということで覚えてはいたのだけど、映画化されて再読した次第。確か村上春樹がハワイに行ったとき、「Tony Takitani」ってプリントされたTシャツを着てる人を見かけて、そこからインスパイアされて書いた、っていうのを何かで読んだ気がする。違ったかな?

とても「らしい」作品のひとつで、例によって独特の孤独感が描かれるわけだけど、この作品は妙にひやっとした感じがする。そのあたりが監督をくすぐったのか、その「ひんやり」感がうまく映像化されていると思う(真夏に撮影されたそうだけど)。

下から上を見上げ、左から右へパンして流れていくカメラワークは芝居を見ているような錯覚に陥る。そしてそこにまさしく「ロンリネス」を表現した坂本龍一のピアノ(ほぼインプロビゼーションらしい)に、西島秀俊の木訥としたナレーションが重なる。どこまでもミニマムでメランコリック。

例えるなら午睡から目が覚めたときの、まわりの白さにフォーカスが合わない時のような、そして何時か分からない、あの漠然とした不安感のような。

決して楽しい映画ではないけど、まさしく良い短編小説を読んだときのような「しん」とした感覚が味わえます。DVDのほか、サウンドトラックもおすすめ。

間接的ではあるけど村上春樹と坂本龍一が唯一つながった作品とも言えますね。
 

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